PN. こ~りん[1年]

ノベルゲーム「ファスカーの薬屋」

800字小説「狂った狂気」

ある町で惨殺事件が起きた。犯人は未だ不明。ホワイト夫妻は無残な状態で発見され、警察が到着した時点で死後四時間が経過していた。
生存者はホワイト夫妻の一人娘のリリー・ホワイトのみであり、事件の影響からか心を閉ざし精神病院に入院中。
「――でも、真実は少し違う。被害者は夫妻であるのは間違いないが、一人娘は生存者でも被害者でもない……そうでしょう? ホワイト夫妻惨殺事件の犯人、リリー・ホワイトさん」
 煙草を咥えたスーツの男が傍らのベッドに横たわる少女に語りかける。珍しくもない金髪の少女だ。
 少女は目を開いているが、何かを話す素振りを見せない。
「そも、発見された遺体は手を加えられていた。壊れた人形を直すように糸で縫い付けられ、母親は顔の表情を強引に変えられ、父親に至っては四肢が人形のモノと取り替えられていた」
 ふぅ、と煙を吐く。
「警察もそんな遺体を公表することを躊躇い、そして、犯人はとても残虐な思考を持つと断定しました」
 少女は何も答えない。
 だが、最初から返答を求めていない。少女が犯人だと知っているからだ。
「リリー・ホワイトさん、私はあなたの家庭を調べていました。娘が虐待されていると報告がありましてね」
 しかし、ある日事件が起きた。
「リリー・ホワイトさん、あなたは普通とは違う。狂気、と言ってもいい」
 煙草の吸い殻を窓から捨て、男は話を続けた。
「……わたしは幸せになりたかっただけ。お父さんもお母さんもおかしくなっちゃったから、元通りに直しただけ。わたしはおかしくない」
 少女は狂気という言葉に反応する。そして、相変わらず無感情な表情のまま、自分は狂っていないと言い切った。
「……そうですか」
 男は少女の言葉を聞くと立ち上がった。聞くべきことは聞けたと、少女の元から立ち去った。
 病室に残るのは少女のみ。無感情に天井を眺めたまま、一人呟く。
「……わたしはおかしくない。お父さんもお母さんも直しただけ。幸せになろうとしただけ」